リードナーチャリングという言葉がビジネスシーンにも浸透し始めています。現代企業が顧客を獲得するための不可欠な施策です。ここでは、リードナーチャリングの概要や具体策、リードジェネレーションとの関係性などについて解説します。企業の営業効率を上げるための無駄を省くポイントもお伝えしていきますので、参考にしてください。
目次
リードナーチャリングとは
リードナーチャリングとは、見込み顧客(リード)を育成(ナーチャリング)していくマーケティング施策です。将来的に顧客となる可能性のある見込み顧客に対し、情報提供や検討支援を通じて信頼関係を築きながら、商品やサービスの購入や利用への意欲を向上させていきます。
現代企業にとって営業やマーケティング活動に欠かせない重要な位置づけにあります。
顧客獲得は、今も昔も変わらない営業やマーケティングの課題です。手法は違ったとしても、見込み顧客との関係性を築く=育てること自体は、昔からの営業やマーケティング活動でも行われていたといえるかもしれません。
しかし、現代社会では、その顧客獲得の前段階の活動プロセスを「リードナーチャリング」と呼び、以前に増して重要視するようになっています。
リードナーチャリングの重要性
リードナーチャリングが重要視される背景には、社会の変化による消費者の購買活動の変化があります。
モノの少なかった時代、人が生活する上で不可欠な、唯一無二の商品やサービスも数多く存在していました。市場に出せば、半ば放っておいても売れていく、という状況すら生み出せていた時代があったのです。
しかし、モノが溢れる現代。人が何かを欲しいと思うとき、市場にはその何かに当てはまる膨大な選択肢があります。その豊富な選択肢のほとんどを、消費者はインターネットを通して移動せずとも自分で知り、見て、検討できるようになりました。
さらに、インターネットは購入手段・経路にもなっているため、店舗に行かなくても手に入れることができます。購入先の地理的範囲も、昔の近所・地域のレベルから、グローバルレベルに拡大しているのです。
その状況が、消費者の購買活動に以下のような変化をもたらしています。
- 比較検討するようになった
- 選択肢がグローバルに拡大した
- 検討時間が長くなった
- モノが充足していることで商品やサービスの必要度を見極めるようになった
- 自分で選択できる環境があるためダイレクトな売り込みを嫌う傾向が高まった
リードナーチャリングは、見込み顧客の検討段階に働きかけていく活動です。
検討段階の顧客に役立つ情報や検討材料を提供することで、購入までを後押しします。なんとなく興味があるという状況から、使う必要がある、価値があるという状況にまで引っ張るための取り組みなのです。
消費者の生活や購買活動の変化に伴い、企業のビジネス環境も変わりました。
- 常に競合がいる
- 競合範囲がグローバルに拡大
- 自社の市場範囲も拡大し、増える顧客や見込み顧客への対応が求められる
- 営業や販売員からのダイレクトな売り方の効力が落ちた
- 画一的な営業手法が通用しなくなった(顧客の生活やニーズの多様化)
すでに満ち足りたともいえる環境下にある消費者の「欲しい!」を引き出さなければなりません。かつ、数多くの競合の中から、自社を選んでもらわなければならないというハードルもセットです。
よい商品やサービスを提供するというだけでは、顧客獲得に結びつきにくくなっています。インターネットやデジタルの発展は、企業の市場を広げている一方で、顧客獲得の難易度も高まっている現状があります。
このようなことから、購入時や購入後のアフターサービスだけでなく、購入前のリードナーチャリングが重要になっているのです。
見込み客の獲得(リードジェネレーション)
リードナーチャリングの手前の活動を、リードジェネレーションといいます。見込み顧客(リード)を生み出す(ジェネレーション)という意味です。
未開拓層からユーザーを発掘する段階であり、自社や自社の商品やサービスを知らない消費者層に向けてアプローチしていきます。企業の知名度が低かったり、新しい商品やサービスを提供したりするときには、リードジェネレーションの必要性が高くなるでしょう。
Webサイトやブログ、メルマガ、WEB広告、SNS、セミナーなどを通して、自社や自社の商品やサービスを知ってもらうための活動を行います。参加や登録、ダウンロードを促して、個人の属性、興味の領域、メールアドレスなどの連絡先の情報を得ていきます。
顧客やリードを獲得するために必要不可欠な段階ではあるものの、リードジェネレーションで得られるのは潜在的な顧客です。あくまでリード化できる可能性のある人との接点や情報が得られたという段階。ですから、その人たちを顧客化に向けて育成(リードナーチャリング)していく必要があるのです。
見込み客の育成(リードナーチャリング)
では、リードナーチャリングでどのような活動が必要になるのかを考えていきましょう。
まず、リード(見込み顧客)には段階があることを知っておく必要があります。購入や利用の見込める顧客といっても、興味を持っているだけの状況もあれば、すぐにでも購入したい状況などさまざまです。
リードナーチャリングでは、それぞれの顧客の育成段階に合わせたアプローチが必要になってきます。スムーズに進めていくためにも、個々の見込み客情報とそれぞれの育成段階をデータベース化して管理していきましょう。
ここから、リードナーチャリングに有効な活動を具体的にご紹介していきます。
SEO対策・WEB広告・コンテンツマーケティング
ブラウザでの検索結果の上位に表示させるためのSEO対策を施したり、ターゲット対象層がよく見ると思われるWEB上に広告を出したりして、オウンドメディアやブログなどに誘導する施策も有効です。
また、各メディアを通じて顧客が求める情報コンテンツを提供して、いわゆる囲い込みを狙う手法(コンテンツマーケティング)も盛んになっています。
とにかく知ってもらうことが先決という段階では認知創出効果の高い方法です。ただ一定のコストがかかり、実際に見込み顧客が増えたかどうかの効果が見えにくいのが難点かもしれません。
メールマガジンやステップメールなどのEメール施策
メールマガジンやステップメールは、低コストで長期にわたって見込み顧客の興味関心を育てることを可能にします。メルマガは見込み顧客に役立つ情報を企業主導で配信、ステップメールは、顧客属性やアクションに応じて個別で自動配信するものです。
いずれも顧客にとって価値のある情報を提供していくことがポイントになります。WEBサイト、ホワイトペーパー、セミナーと組み合わせて運用していきやすい点もメリットでしょう。BtoC、BtoBいずれにもよく活用されています。
ホワイトペーパー
詳細の情報を提供する機能を持つホワイトペーパーは、見込み顧客の検討段階で大きな効力を発揮します。商品やサービスの紹介や説明だけでなく、活用法や利用顧客の成功例などの具体例も需要のある内容となっています。
見込み顧客にとっては有効な検討材料となり、購入意欲の喚起力も高いツールです。内容を見込み顧客の段階に合わせて作成すれば、対象層も広くなり、長期的に使っていける点がメリットです。
マーケティングオートメーション(MA)ツールの活用
リードナーチャリングで、マーケティングオートメーション(MA)ツールを活用する企業も増えています。MAツールとは、業務プロセスを自動化できるシステムです。
たとえば、メールの自動配信、ダウンロードに対する自動情報提供、WEBユーザーに対するリアルタイムの自動対応、顧客の閲覧ログなどに合わせて選定する広告の自動配信などが可能になります。
もちろん、最適な送信・提供タイミングも自動で測ってくれるため、リードナーチャリングの工数も一気に削減できます。
セミナー
セミナー開催も有力なリードを引きやすい施策のひとつです。見込み顧客が知りたがっている内容をテーマにすることが前提ですが、商品やサービスの紹介や使い方の説明のセミナーや、課題解決につながる情報提供する中で、ひとつの方法として自社製品を紹介するというパターンもあります。
現在は、ウェビナーも可能なため、開催コストや参加者のハードルも下がってきています。メルマガやWEBサイトと連携させた集客やその後のフォローが可能です。
SNS
Facebook、TwitterなどのSNS媒体に自社アカウントを持ち、情報発信をする方法もあります。業界や分野を絞り込んで配信でき、見込み顧客の可能性の高い人たちに訴求していけるのが特徴です。いいね!、シェア、リツイートで拡散が期待できるのもメリットです。
ただし「マイナス情報」についても拡散の効力が及ぶことを認識しておく必要があるでしょう。また、SNS配信で信頼を得ていくためには、提供情報の質の確保と継続的な運用が不可欠となります。
インサイドセールス
インサイドセールスとは、電話やメールで見込み顧客と接点を持ち、コミュニケーションを継続しながら商談機会を得る手法です。つまり、直接対面しないアプローチ方法です。
商談段階に達したら営業にバトンタッチされるのが一般的ですが、もともとは商談、契約、アフターフォローまでを含む意味合いを持ちます。営業マンパワーも不足気味の昨今、インサイドセールスの有効性は伸びてくるかもしれません。
コストと時間が削減でき、営業のコア業務の質を高め、ベストタイミングでのアプローチが可能になるため顧客獲得率のアップが期待できます。この手法を採用する場合、見込みの薄い顧客に対するフォロー(育成)が希薄にならないように気をつけましょう。
営業効率の無駄を省くポイント
リードナーチャリングは、煩雑なプロセスになりやすく、多くの工数が必要とされます。
リードが多いのは喜ばしいことですが、企業にそれぞれのリードへの対応能力がないと結局、顧客化に結びつけられません。かといって、すべての見込み顧客に1対1で対応することは、どの企業でも難しいでしょう。
できるだけ無駄を省いて、営業活動を効率化することが重要になってきます。
では、リードナーチャリング上の無駄は何をどのようにすれば省けるのか、そのポイントをお伝えしていきます。
顧客リストはひとつにまとめる
顧客リストは、社内でひとつの場所(ツール)でまとめて管理するようにしましょう。
リードナーチャリングでは、上記でも紹介したようにさまざまな手段があります。リードにも段階があり、その段階に応じて手段や内容を切り替える必要も出てきます。ひとつにまとめておかないと、高い確率で混乱してしまうでしょう。
見込み顧客に関わる情報は、名刺、WEBサイト、SNSなどいたるところから入ってきます。それを施策ごとに管理したり、社内で異なる媒体(紙、データ内、各担当者のPC内)に置いていると、せっかく得ている顧客情報をリードナーチャリングでうまく活用しきれなかったり、各施策の手始めで常に重複する作業が発生したりするのです。
また、一つの場所で管理していれば、営業担当へのバトンタッチも容易になり、スピーディーに十分な情報をシェアできるはずです。
カスタマージャーニーの作成
商品やサービスが購入されるまでの顧客の思考、行動のプロセスをカスタマージャーニーといいます。一般的には「認知」「興味」「情報収集」「比較」「購入」「リピート」という経緯を辿ります。業界や商品・サービスごとにそれぞれの中身が異なるため、自社の顧客を当てはめて見出していくといいでしょう。
- 「認知」
スタートは、自社のターゲット層が「どのようにして商品やサービスを知るのか」です。場所、タイミング、きっかけ、情報元などが挙げられます。 - 「興味」
「興味を引き出したものは何か」が次のステップです。興味を持った上で、どんなことが、もう少し深く知りたい(情報収集)に導いているのかも探ります。 - 「情報収集」
「どんな情報をどうやって手に入れているのか」です。たとえば、どんなチャネルを活用するのか、どのような情報を探しているのか、など。 - 「比較」
「どのようにして比較をしているか」ということです。WEB上の比較情報を参考にする、購入レビューを見る、競合に見積もり取るなどの要素が挙げられます。 - 「購入」
「どのようにして購入しているか」です。購入を決定づける要素は何か、またどのような購入経路で手に入れているのかなどを検証します。 - 「リピート」
「どのような動機でリピートしているか」ということです。上記のプロセス中のどのような点がリピートを促しているのか、どういった働きかけがリピート創出に有効かなどを見極めていくといいでしょう。
このプロセスを把握すると、自社が躓いているポイントも見えてきます。
また、カスタマージャーニーを作成し、社内共有することで顧客視点でのナーチャリングシナリオの設定と実行が可能になります。顧客視点になることで顧客が持つ課題も見えやすくなるため、施策でも的を射た内容を届けやすくなるでしょう。
数値を“見える化”、スコアリングで分析・評価
リードナーチャリングの状況は、数値でスコアリングし、その数値ごとにどのように行動すべきかを設定していきましょう。
見込み顧客の段階で分類したリストで管理します。このとき、個々の見込み顧客がどの分類に当てはまるかを決めるには基準が必要になるはずです。
見込み顧客の分類ごとに数値ランク設定しておき、見込み顧客の条件や各アクションにも数値スコアを割り振ります。たとえば、ホワイトペーパーのダウンロードで4点、メルマガ登録で5点、クリックで2点というような感じです。
10点に到達したら次のランクへUP、30点を超えたらホットリードというように決めておきます。数値で状況が見える化すると、それぞれの顧客が今どの段階(数値)にいるのかを明確に把握することができるのです。
見込み顧客ごとに条件や状況が異なるため、いくつかの側面からの確度基準を設けておくとさらに精度が高められます。適合性、興味関心、検討状況・条件などに分けそれぞれの度合いを測っていくのも一策です。
リードナーチャリングを行う側としては、PDCAが不可欠です。数値でのスコアリングによって、全体の分析・評価もしやすくなり、適切、かつスピーディーなPDCAを回すことができます。
スコア毎のアプローチ
スコアリング設定をしたら、それぞれの数値(段階)の見込み顧客に対し、どのようなアプローチをするのかを決めます。段階ごとに適切なアプローチは異なり、顧客に合うアプローチをすることがリードナーチャリングや営業活動の肝となります。
たとえば、メールでのアプローチでは、初段階のランクでは情報提供に徹して、ランクが上がっていくごとに内容を変えていくのも有効です。
または、低ランクの顧客にはSNSでのアプローチを続け、中ランクに到達したら、詳しい資料のダウンロードを促し、最高ランクになったら積極的なオファーをしていくというものです。
部門間の連携
リードナーチャリングは、マーケティングと営業の連携で成り立ちます。
リードナーチャリングを実行するのがマーケティング部門でも、最終的に顧客化するのは営業担当ということも少なくないはずです。営業は、名刺交換などを頻繁に行いますが、名刺交換時点の相手は、リードナーチャリングの初期、もしくはリードジェネレーションと同等の見込み顧客ということもあります。
マーケティング部門が、営業が持つ情報を元にナーチャリングを仕掛けるという流れもあるということです。したがって、マーケティング担当と営業担当が顧客情報を共有することが重要になってきます。
顧客化に近いリードをマーケティング部門が育成できたとしても、「この人買ってくれそうです」だけでは、営業はできません。営業担当には、リードがその状態に育ち切るまでの経緯と情報が不可欠なのです。
また、ひとたび営業が顧客化しても、再び見込み顧客に戻る流れも少なくありません。
見込み顧客を探す一手とも言えます。この場合は、マーケティングで関係性を維持していきますが、「顧客としての履歴」は絶対に外せない情報となります。なぜなら、一度も利用のない見込み顧客と、商品は違っても一度でも自社を利用したことのある見込み顧客では、条件や状況、心理に至るまですべてが変わってくるからです。
先にもお伝えしたとおり、顧客に合うアプローチがリードナーチャリングや営業活動の肝です。ズレが生じると、顧客の信頼を失い、顧客損失につながりかねません。
マーケティングと営業はコミュニケーションを密にするとともに、顧客情報を一連的に共有していくことが大切です。
コールドリードは育てる
リードナーチャリングをどのような施策やチャネルで進めていくにしても、あらゆる段階の見込み顧客がいます。その中で多くの割合を占めるのは、リードジェネレーションされたばかりの層や、購入検討段階には至っていない層です。これらの見込み顧客の段階をコールドリードといいます。
確実にリードを顧客化につなげたい…、企業の本心だと思います。迅速なアプローチが望ましいのは確かです。
しかし、ホットリード(購入に近い層)の対処・対応ばかりに気を取られ過ぎて、コールドリードを無視してしまっては、将来のホットリードが存在する可能性を捨てていることになります。
コールドリードも、ウォーミングし、ホットリードに育てていける存在であり、リードナーチャリングはそのために存在している活動に他なりません。わずかな接点止まりで放置したままのコールドリードが社内に眠っていないでしょうか。
見込み客をホットに育てるリードナーチャリング
現代社会で企業が顧客を獲得するために必要とされるリードナーチャリング。
最初の接点から顧客化までのシナリオを設定し、多様な手法を組み合わせて進めます。 リスト化した上での顧客情報の一括管理は、ほぼマスト項目です。各手法の工数が多くなりがちですから、上記でご紹介している無駄を省くポイントなどを取り入れて効率化を図りましょう。
PDCAを回しながら徐々に効果的なナーチャリングプロセスを作り上げていってください。