顧客満足度の向上には従業員満足が不可欠という認識が広がっています。企業が顧客満足を目指すとき、顧客に意識が向きがちですが、実は、従業員の心理とも密接な関係があるようです。今回は、顧客満足と従業員満足の関係や従業員満足度を向上させるメリット、業績低下を防止するために従業員満足を向上させる有効策を考えていきたいと思います。
目次
顧客満足と従業員満足の関係性
顧客満足と従業員満足は、どのように作用し合うものなのでしょうか。顧客満足(CS)と従業員満足(ES)の定義を確認しつつ、その関係性を探っていきたいと思います。
顧客満足(CS)とは
顧客満足(Customer Satisfaction:略してCS)とは、お客様の満足感のことです。何に満足するかというと、購入した商品、受けるサポート、使用することでお客様が経験する事象が挙げられます。
多くの企業がその重要性を認識しさまざまな取り組みを行なっていますが、顧客満足は至れり尽くせりのサービスを提供したからといって得られるとは限りません。
真の顧客満足を得るには、顧客の期待を見極めた適切なサービスでなければならないのです。そのためには、時間と労力がかかりますし、効果的な戦略と実行する能力やスキルが求められます。
従業員満足(ES)とは
従業員満足(Employee Satisfaction:略してES)とは、従業員の自社や自社で働くことに対する満足感です。
その満足感の中には、自分が働く会社や携わる仕事に対する誇り、成果を出せたときの達成感、組織の中で感じる安心感や自己効力感、企業に貢献しながら自己実現も可能という充実感など多岐にわたる心理が含まれるでしょう。
企業は、従業員が満足できる状況になることや、満足感を得ることを従業員だけに任せることはできません。従業員満足はひとりの努力だけでは得ていくことは難しいでしょう。人の心理は環境にも大きな影響を受けます。組織である限り、満足感を得られるような環境づくりに努めることも大切なことなのです。
社員満足なしに顧客満足は成り立たない
企業は従業員と一体となって顧客満足の向上に努める必要があります。重要な視点となるのが、実際に顧客と直接触れ合い、関係性を築いていくのは他でもなく従業員だということです。
従業員が自社で働くことや、自社の商品やサービスに誇りを持てていなければ、質の高いサービスの実行は難しいでしょう。ですから、顧客満足を求めて同じ方向を向いて進みながらも、従業員のケアを忘れてはならないのです。
従業員満足がなければ顧客満足を得ていくことはできません。顧客満足を求めるのであれば、その前に従業員満足度を高める必要があるのです。
従業員満足度を上げることで得られるメリット
従業員満足度が上がると、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
定着率の安定
従業員満足度は、「自社」「自社で携わる仕事」「職場環境」「自分の立ち位置」「ワークライフバランス」などに対して満足しているということです。満足度の高さに反比例して、不満要素は減っていくため、離職を考える可能性が下がります。
満足度が高ければ高いほど、従業員は「できるだけ長く働きたい」という意識をもってくれるでしょう。個々のスキルや能力も着実に向上するため、それが組織の人的能力を上げることにもつながります。
また、従業員満足度の高い組織には、求職者も集まってくるものです。新たな人材を迎え入れようとするとき(採用活動)にも、従業員満足度が高いという組織状況が企業ブランディングとして有効に働くでしょう。
生産性の向上
従業員満足度は個人や組織の生産性とも深い関わりを持ちます。満足度が高いと意識や意欲を高くもって働くことができるため、生産性は上がっていくのです。ポジティブな心理が優勢であれば、自ら動く主体性も発揮されやすくなります。
失敗しても負けずに乗り越えて、新たな目標に向かうことができるでしょう。個々の仕事にも組織で進める仕事にも、苦難や問題、トラブルはつきものです。
従業員満足度の高い組織というのは、周りの理解や協力も得られやすい環境が整えられているものです。生産性を下げる要因も随時、解消していける風土が育まれているはずです。
使命感の向上
従業員満足度が高いと、自発的な思考や行動が増えます。そのときに企業の一員としての使命感、組織の中での自分の使命を意識するようになるのです。
企業があえて指導やお願いをしなくても、企業の一員として恥ずかしくない仕事の遂行に努めるでしょう。そのとき、企業理念や方針、掲げるビジョンなどが指針になっていくはずです。
安心感と信頼感を持って働けることは、自分の強みを最大限に発揮するために必要な条件でもあります。自分らしく最大の能力を発揮していれば、その能力はきっとますます伸びていくはずです。
活躍できる環境があれば、組織の中での自分の使命をしっかり認識しながら、責任を持って仕事に取り組めるでしょう。やる気やモチベーション、やりがいを感じながら、質の高い仕事ができていくはずです。
顧客満足度の向上
従業員満足度は顧客満足度の向上につながります。顧客満足度を向上させるためには不可欠なものといったほうが適切かもしれません。上記のメリットの集大成ですし、これが企業と従業員のメリットが一致するポイントではないでしょうか。
顧客満足度が上がれば、直接・間接を問わず、業績の向上が見込めます。顧客満足度が上がるとき、従業員の報酬や待遇アップの可能性だけでなく、充実感ややりがい、モチベーションも伴っているはずです。
それにより、従業員はさらに自社や自社で働くことの意義や良さ、つまり従業員としての満足を深く感じ取っていくものではないでしょうか。
従業員満足度向上・業績低下防止策
従業員満足と顧客満足と企業の業績のつながりがわかったところで、従業員満足度の向上のために有効と考えられる取り組みを解説します。言うまでもなく、業績の低下を防ぐことにもつながる項目です。現状を見直して、不足があれば取り組まれてみてはいかかでしょうか。
企業理念
企業理念を従業員に浸透させることが、従業員満足度の向上のためには重要なポイントとなります。
企業理念に共感できることが前提です。企業理念は頻繁に変わるものではないため、共感できないまま組織に属しても、ずっと不満を抱えることになってしまうでしょう。極端に言うと、採用時にその共感度を見極めることも大切になってきます。
企業の人事評価や称賛も企業理念に基づいて策定されます。つまり、企業理念に沿って良い行動(質の高い仕事)をすれば、評価も得られるわけです。どれだけ努力をして、良い仕事をしても、企業理念から外れていれば評価はされにくいでしょう。
しかし、頑張っても評価されないことに不満を持たない社員はいません。ですから、企業がしっかり自社の理念を伝えておくことが重要になってくるのです。
評価制度・給与
頑張りに対して、正当で公平な評価がされることを従業員は望んでいます。評価は昇進・昇格、ひいては給与に結びついていくものであり、従業員満足度を示す大きな要素のひとつです。
組織では、誰かが昇進すれば、他は据え置きということもよくあります。降格という動きもあるかもしれません。評価する/しないの基準が曖昧だと、評価されないことに対する不満が上がりやすくなります。
評価制度やその基準を明確にし、全社員が共通認識を持っておくことが大切です。そうすれば、各々に与えられる評価、与えられない評価に納得がいくでしょう。評価基準=求められることという意識も生まれ、組織を挙げて統一感のある仕事を進めていけるのです。
労働環境・福利厚生
物理的にも精神的にも安心できる安全な職場環境があることも大事なことです。
雰囲気が良く、働きやすい職場づくりのための取り組みが活発だと、従業員は大切に扱われていることを感じ取ることができます。職場でのコミュニケーションを良好にするための取り組みなども、個々やチームの業務の大きな助けになるはずです。
福利厚生なども、従業員のニーズや趣向に合わせて整備することができれば、ワークライフバランスを整えやすくなります。休日や休暇を充実させられるだけでなく、そのことが仕事にも良い影響を与えていくはずです。
良いパフォーマンスで高い成果を上げることができれば、従業員満足という良好なスパイラルが起きるでしょう。
社内コミュニケーション
職場での仕事は一人では進めることができません。役割分担があったとしても、視点を広くもつと、結局はさまざまな人たちとの連携で進めていくものです。そのような仕事の進行と最終的な質を決めるものが、職場のコミュニケーションです。
職場の人間関係は、従業員満足度にも大きな影響を与える要素です。単なる意思疎通では満足を生み出すことはできないでしょう。安心感や信頼感がベースとして必要になってくるのです。
コミュニケーションが取りにくいと、職場内に摩擦や誤解が生まれやすくなり、ギスギスした空気の中で働くことになります。このような点を見つけ出し、企業はメスを入れる必要があるのです。
円滑なコミュニケーションを行うには、何が必要か、従業員や従業員の業務を理解しながら、工夫を凝らしていく必要があります。たとえば、やり取りが簡素になるチャットツールを導入したり、気軽に短時間ミーティングができるスペースを用意したりすることも一策です。
アンケートの実施
従業員に満足度を測るためのアンケートを行うという方法もあります。週一、月一など定期的に繰り返して分析できるのが理想です。大切なことは、「アンケートを実施した」で終わらないことです。小さなことでもいいので、反応を示していくことが重要になってきます。
アンケート回答は「従業員」にとっての職場の改善のための材料です。継続していくことの意義も大きいため、従業員が回答する意欲もキープしなければなりません。
質問の項目は、従業員の負担にならないよう少数に抑え、数分で完了できる内容にされることをおすすめします。匿名性にして、質問も気軽な回答を促すような言い回しにすることがポイントです。
商品の価格や品質だけでは顧客満足度は上がらない
どんなに価格が安くても、どんなに品質を高めても、顧客満足度を上げることはできません。モノに満たされた時代、消費者はその商品から得られる「価値」を求めるようになっています。商品価値を高めるような顧客対応が必要になっているということです。
顧客対応を行うのは従業員です。従業員満足度を高めて、自社の顧客対応の質を確保・向上させていきましょう。