顧客満足度や顧客ロイヤリティの獲得や向上と、収益性確保の両方を実現するためのマーケティング手法として顧客体験(CX)マネジメントが近年注目を集めています。顧客体験とは、お客様が自社商品やサービスを認知した段階から、購入やアフターサービスまでのすべての顧客接点で一貫したサービスを提供し、企業評価につなげることを目的とした考え方です。この記事では顧客体験の基本的な考え方や、ヘルプデスクにおける顧客体験向上のポイントを解説します。
目次
顧客体験(CX)とは?
顧客体験とは、お客様が企業の商品やサービスを認知し、興味を持った段階から、商品やサービスの購入、利用を継続するまでの過程で発生する複数の顧客接点にまたがる一連の体験のことです。英語のCustomer Experience(カスタマーエクスペリエンス)を略し、CXと記載されることもあります。
お客様は商品購入までに企業と非常に多くの接点を持ちます。たとえば、お客様が商品を認知したあと購入に至るまでに以下のようなプロセスが考えられるでしょう。
- 気になる商品を検索サイトで企業の商品サイトを調べる
- 比較サイトやInstagram、YouTubeなどで口コミやレビューを確認する
- 購入前の不明点は企業の問い合わせ窓口に相談する
- 配送やアフターサービスのきめ細やかさや真摯さを厳しくチェックする
このように顧客接点が多様化した環境下において、お客様の企業評価を総合的に高めるためには、製品開発から広告、営業、アフターフォローまで部門を横断した一貫性のあるサービス提供が求められています。
顧客満足度(CS)との違い
顧客体験と似たような用語に顧客満足度(CS)があります。顧客満足度とはCustomer Satisfaction(カスタマーサティスファクション)のことで、お客様が商品やサービスにどれだけ満足しているかの指標です。顧客満足度が高ければお客様に十分な価値を提供できているとされ、従来マーケティングやカスタマーサポートで顧客満足度を意識した施策が数多く行われてきました。
顧客満足度は商品やサービスに対する顧客感情に重きを置いて評価しているため、いかにお客様のニーズを満たせるか、トラブルをなくせるかなど、あくまでも部分最適な対応を目指します。それに対して、商品やサービスそのものだけではなく、企業がお客様に提供するサービス全体の満足度を評価するのが顧客体験です。
顧客体験(CX)が注目を集める時代背景
顧客体験が注目を集めるのには、日本国内の市場成熟に伴う商品サービスへのニーズや消費スタイルの変化が背景にあるといわれています。
近年は商品サービスそのものを所有することを重視する「モノ消費」ではなく、所有にこだわらず商品サービスを通して得られる体験や満足感といった「コト消費」「トキ消費」に価値を見出すお客様が増えました。そのため、従来のように「良いものを作れば売れる」という考えでは競合企業との差別化が困難です。
また、顧客接点や顧客行動の多様化も顧客体験が注目される背景のひとつです。インターネットの普及に伴い、お客様は比較サイトやSNSなどで検索・比較検討したうえで購入を判断するなど、顧客接点や顧客行動が多様化しています。つまり、お客様自身で自分の欲しい情報をさまざまなチャネルから入手できるので、従来のように企業による一方的な情報提供だけでは購買行動につながりにくい状況なのです。
企業競争力を維持しながら中長期的なファンやリピーターを獲得するためには、商品自体の価値向上や断片的なサービス提供だけではなく、一気通貫の顧客体験が重要といえるでしょう。
顧客体験(CX)の重要性やメリット
顧客体験を高める取り組みを実施することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。ここからは顧客体験を高める重要性やメリットを2つの観点から解説します。
ロイヤルカスタマーの獲得
ロイヤルカスタマーとは企業や商品サービスに対して「愛着」や「信頼感」を持っているお客様を指します。企業視点で考えると、ロイヤルカスタマーは何度もリピート購入をしてくれる、友人・知人に商品を自主的に薦めてくれるなど、中長期的に安定的な利益をもたらしてくれる重要なお客様です。
商品サービスそのものの機能や価格による差別化が困難な現代社会では、「1:5の法則(新規顧客を獲得するためには、既存顧客の5倍コストがかかるという法則)」の通り、既存顧客維持を重視する企業が増加しています。なかでも確実に業績アップにつなげていくには既存顧客のなかからロイヤルカスタマーを育成し、いかに囲い込めるのかが鍵といえるでしょう。
優れた顧客体験を提供できれば、顧客離れを防ぎ、企業や商品サービスに愛着を感じてくれるロイヤルカスタマーの獲得につながりやすくなります。
お客様による宣伝効果
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2018年に実施した「口コミサイト・インフルエンサーマーケティングに関するアンケート」の調査によると、商品サービスの購入時に口コミを「確認する」「確認することが多い」と回答した人の合計は84.4%にものぼります。そのため、インターネットやSNSが普及し、誰でも気軽に情報の受発信ができる現代社会において、口コミを活用したマーケティング戦略を採用する企業は多いのです。
口コミによる具体的な宣伝効果としては、大きく2つあげられます。まずは企業広告や広報ではなく身近な人、親しい人など第三者が商品・サービスに関する好意的な口コミを発信すると、信ぴょう性が高い体験談として受け止められやすいといわれる効果(ウィンザー効果)です。そして、高評価の口コミ件数が多いという特徴が商品・サービス全体をポジティブなイメージでとらえやすい効果(ハロー効果)があります。
お客様にとって価値ある顧客体験が提供できれば、周囲にポジティブな感想を発信してもらえるようになるので、広告・宣伝手法として有効活用することが可能です。
ヘルプデスクで顧客体験を高めるためのポイント
ヘルプデスクは商品サービス購入前から、購入後のアフターフォローまで多くの顧客接点を持つため、顧客体験向上に特に重要な役割を担います。ここからは、顧客体験を高めるためにヘルプデスクで実践できる具体策を3つ紹介します。
現状分析と課題の特定
まずはヘルプデスクだけでなく企業が現在提供しているすべての顧客接点を洗い出し、認知、興味や関心、検討、購入、購入後といったステージごとに顧客体験を整理します。この時、お客様へのアンケート結果や、行動履歴、アクセスログなど蓄積されたデータからお客様一人ひとりの行動・感情を読み解き、「カスタマージャーニーマップ」として可視化することが重要です。
現状の洗い出しができたら、課題点を特定します。課題点を洗い出すには、以下のような5つの顧客体験のうち各顧客接点でお客様が求めている顧客体験は何か?どれほど満足いく顧客体験を提供できているか?を確認しましょう。
- RELEVANCE:私向けのものだと思える
- EASE:私にとって意味がある
- OPENNESS:オープンで正直である
- EMPATHY:私の立場で考えてくれる
- EMOTIONAL REWARDS:いい気分にさせてくれる
他社事例を参考に顧客体験向上施策を検討
現状分析や課題特定ができたら、ヘルプデスクに関する顧客体験向上施策を検討し実行します。たとえば、お客様が望む問い合わせチャネルを用意する、よくある問い合わせなどを活用し、お客様の迅速な課題解決を促進する、問い合わせ担当の業務負荷を減らし業務効率を高めるなどです。
ヘルプデスク内に複数のサポートチャネルがある場合は、情報を一元管理しチャネルをまたいだ包括的なお客様サポートが実施できるようにするのも有効な方法です。
この時、自社の業種業態に近い企業や、取り組みたい課題に対する成功事例を持つ企業の事例を参考にするのもいいでしょう。
施策の振り返りと改善
顧客体験向上施策を実行した結果どうなったのかの振り返りをします。施策に対するお客様の反応率やアンケート結果などさまざまなデータ、観点から結果を分析し、さらなる改善活動につなげましょう。
なお、顧客体験は複数の顧客接点における一気通貫のサービス提供が必要であり、ヘルプデスクだけの対応にとどめていては不十分です。顧客接点を持つすべての部署と連携しながら企業全体で顧客体験向上に取り組むことが重要です。
顧客体験(CX)向上を推進し企業の価値を高めよう
現代社会で商品サービスの競争力を保ち、高い収益を維持するためには商品サービスの認知から購入、アフターフォローに至るまでのすべての顧客接点において、優れた顧客体験を提供することが重要です。
顧客体験向上の取り組みにおいては、顧客接点を多く保有するヘルプデスクが非常に大きな役割を担います。顧客体験向上に真摯に取り組むことで、ヘルプデスクは従来の「コストセンター」から脱却し、企業価値向上やロイヤルカスタマーの獲得に貢献できる「プロフィットセンター」への転換が可能となるでしょう。