顧客獲得競争が激しさを増す昨今、カスタマーサービスの重要性が高まっています。購買活動がオンラインでできるようになったことも要因のひとつです。ここでは、カスタマーサービスの仕事内容やカスタマーサクセスとの違いを確認します。カスタマーサービスに必要なスキルや身につくスキル、カスタマーサービスコミットメントを解説します。
目次
カスタマーサービスとは
カスタマーサービスとは、顧客の問題や疑問を受け付け解決支援やサポートをすること、もしくはその職種を指します。その役割は、購入前、購入時、購入後に顧客が必要としている情報を提供し、顧客満足度を向上させることです。現代の消費者や企業の購買活動の動向に照らすと、企業におけるカスタマーサービスの重要度は高まっています。
カスタマーサービスの仕事内容
カスタマーサービスの多くは、電話、メール、チャットなどで対応します。対応する内容は多岐にわたりますが、主に以下のようなものが挙げられます。
購入前
- 商品やサービスの詳細や使用方法についての説明
- トライアル時のサポート
購入時
- 注文方法の説明
- 注文の受付
- 導入時のサポート
購入後
- 使い方に関する質問への回答
- クレーム対応
- 不具合に対する解決策の回答・提案
- 関連商品や代替策の提案
- 追加注文の受付
- 修理・交換の受付
- サービス内容や支払い方法の変更依頼の受付
全般
- 企業や商品・サービスに関する意見、要望、提案の受付
- カスタマーサービスに対する意見、要望、提案の受付
- 社内の上司、本部、営業部、開発部、製造部などとの連携(伝達・報告)
- システムに問い合わせ内容の記録
- カスタマーサービスフローや業務の改善
カスタマーサービスとカスタマーサクセスの違い
近年、カスタマーサクセスという機能やポジションを置く企業も増えています。
カスタマーサービスとカスタマーサクセスは似ているようですが、その本質は異なります。ここで、この2つの違いを確認しておきましょう。
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスでは、自社プロダクトを通じて、顧客のビジネス上の目標達成や成功を目指します。購買プロセスとデジタル技術のつながりが深くなったことや、SaaSなどのサブスクリプション型のビジネスモデルが登場したことで、新たに生まれたともいえるポジションです。
カスタマーサービスは、顧客からの問い合わせやクレームに「受動的に対応」する仕事です。それに対し、カスタマーサクセスは「能動的に支援」をしていく仕事といえます。いずれも顧客満足度を上げる目的をもちますが、この満足の内容に違いがあるようです。
何によって満足を引き出しているか
カスタマーサービスは、自社プロダクトに関しての問題や疑問を解決することで、自社やプロダクトに対する信頼や満足度が高まることを目指します。BtoBの場合は、顧客企業の事業の中のプロダクトに関するサポートです。発生した問題に対し、ケースバイケースで適切に対応しながら解決を図ります。つまり、顧客の事業の中の、ある一要素(自社プロダクト)に対する顧客満足を引き出すものです。
カスタマーサクセスも、自社プロダクトの問題、疑問には対応します。しかし、カスタマーサクセスは顧客のビジネスの全体を捉え、顧客企業の目標達成や成長を支援します。自社プロダクトを通じて、ビジネス上の目標達成や成長を実感してもらう。これがカスタマーサクセスの目指す顧客満足です。つまり、その顧客満足の範囲がプロダクトという一部分だけではなく、プロダクトが関わる事業そのものに広がるということになります。
そのために、率先して調べたり、ヒアリングしたりして顧客状況を分析し、顧客が直面すると考えられる問題を先回りして予測します。問題の発生自体を防ぐ対策を提案しながら進めていくのがカスタマーサクセスです。
カスタマーサービスに必要なスキル
カスタマーサービスは、顧客に1対1で対応します。
自社と顧客が関係性を築く中にある貴重な接点のひとつです。その接点での対応が、良くも悪くも自社イメージや営業活動に影響を与えます。不適切な対応が大きな損失につながることもあるポジションなのです。適切な対応をしていくためにはどのようなスキルが求められるのでしょうか。
コミュニケーション能力
お客様に接する以上、コミュニケーション能力が不可欠となります。
具体的には、しっかりと聞き、お客様の現状や意図を正確に把握する能力が求められます。把握する状況次第で、その後のサポート内容や提案が変わってくるからです。回答や提案をする際に、顧客の理解度に合わせてわかりやすく伝える力も必要です。
お客様は何らかの意図や目的を持って、カスタマーサービスにコンタクトしてきます。聞くだけでなく、きちんと反応を示すことも重要です。たとえば、聞かれたことに対して的を射た回答を返し、さらにお客様の状況に合わせてプラスαの情報を提供します。
クレームであれば謝罪も大事ですが、個々のお客様の状況に合わせた配慮のある言葉がけも必要です。その後の改善や報告も迅速に行います。対応した内容や顧客情報は、社内の他のメンバー、上司、他部署と共有し、連携していかなければなりません。コミュニケーション能力は、カスタマーサービス業務のすべてに必要とされるスキルです。
クレーム対応
カスタマーサービスの業務の中でもストレス度が高くなるのがクレーム対応です。どのような状況でも、冷静に現状把握をするスキルが必要です。
クレームですから、顧客のネガティブな状況や心理がコンタクトの動機、対応はそこからのスタートになります。中には、感情をあらわにして恐怖感を覚えるような態度の顧客もいますし、高圧的に責めたてられることもあります。
お客様がどのような態度であろうと、クレームの状況を解決し、今のお客様の状況と心境を変えなければならないのです。メンタルのタフさだけでは、お客様のネガティブ心理を変えることはできません。クレーム対応の適切なステップを踏んでいくために、解決までお客様をリードするスキルが求められます。
グッドマンの法則
グッドマンの法則をご存知でしょうか。
アメリカTARP社のジョン・グッドマン氏が、大規模な消費者苦情処理調査を行ないました。独自調査に加え、全米のあらゆる業種の大企業が実施した市場調査も集約され、大量のデータに基づいた調査です。クレーム対応と再購入率の関係性などの数値結果がまとめられています。
その数値結果をもとに、日本の佐藤氏がある法則を見つけ出します。その法則に「グッドマンの法則」 という名前が付けられました。3つの法則があります。
グッドマンの第一法則
不満を持った顧客のうち、クレームをして解決に満足した人のほうが、クレームをしなかった人より再購入を決める確率が高い。
グッドマンの第二法則
サポート機能を備え、顧客が求める情報を適切に伝えることができれば、企業の信頼は高められる。
ポジティブな口コミが広がる可能性も高くなり、購入が促進され市場拡大につながる。
グッドマンの第三法則
サポート機能を備えたりして顧客が求める情報を伝えていけば、企業の信頼は高められる。
ポジティブな口コミが広がる可能性も高くなり、購入が促進され市場拡大につながる。
参照:Goodmanの法則ーグッドマンの法則ー|顧客ロイヤルティ協会・佐藤知恭
カスタマーサービスにとって、クレーム対応は避けたい業務のひとつかもしれません。しかし、上記の3つの法則を踏まえると、カスタマーサービスのクレーム対応もひとつの好機と捉えることができるのではないでしょうか。
どんなにネガティブで強烈なクレームも、カスタマーサービスの対応次第で再購入や好意的な口コミにつなげられるのです。クレームに対峙するときは、こういう視点をもちながら対応できるのが理想でしょう。
正確・迅速な処理能力
カスタマーサポートは、問い合わせやクレームに対応するのが仕事ですが、1日に数多くの案件に接します。数分程度で解決できるものもあれば、その日だけでは解決できないタイプのものもあります。似たような案件が続くこともあるでしょう。数十件、数百件と対応数が増えるほど混乱しやすいものです。
顧客を待たせたり、間違ったりして、顧客の時間を余計に取ってしまうと不満も生まれやすくなります。一件一件を、正確かつスピーディーにこなすスキルが求められます。
カスタマーサービスを持つほとんどの企業が、PCや専用システムで対応します。PCやシステムなど使うべきツールを駆使できる手際の良さも含めた処理能力が必要です。
カスタマーサービスで身につくスキル
カスタマーサービスの仕事に携わることで身につくスキルをみていきましょう。
基本スキルが磨かれる
上記で説明した「必要なスキル」は、対応数が増えるごとに磨かれていくでしょう。多種多様な顧客と対峙する中、マニュアル一辺倒の対応だけでは難しいことも多々あります。合わせながら対応していくため、その経験でどのようなタイプの相手にも対応できるようになるでしょう。
対応が大量になるほど、臨機応変に対応する力が身につきます。内容の異なる案件が次々に発生し、同時進行で進めなければならない状況を経験しないとなかなか身についていかないスキルです。一件一件に対し、相手の状況を鑑みて、今、可能なことの中でベストな対応を考えて対応できるようになっていきます。
また、しっかり聞かなければ良い対応につながらないことも体感で学びます。自ずと聞き方や受け応えのスキルも上がっていくのです。難しい(怖い)クレームがきても、「場数」が冷静に対処する能力をもたらします。対応ステップも「場数」で自分に染み込んでいくため顧客満足も引き出せるようになるはずです。
事務処理も、対応数が増えるごとにコツもつかめてスピードも上がっていくでしょう。
問題・課題解決力
顧客の中には、話や説明がうまくない人もいます。何が問題なのか、わからずに悩んで問い合わせする顧客もいるでしょう。
カスタマーサービスの対応のスタートは問題や疑問の核(本質)を見つけ出すことです。問題の本質を捉えた上で、解決策を探って提案しなければなりません。こういうときに何が必要か、何が有効かを考え、その解決策を顧客にわかりやすく伝える必要があります。スムーズに解決に導くために不可欠なプロセスです。
カスタマーサービスは、この繰り返しといっても過言ではありません。いわゆるコンサルタント的なスキルも身についていくのです。
ビジネスマナー
カスタマーサービスを設置する企業の多くは、しっかりした教育・指導を実施します。質の高いビジネスマナーを身につけることができるでしょう。
とくに、口頭や文面での言葉遣い、対応時の配慮の仕方などは徹底されます。カスタマーサービスの仕事の要素の大部分を占める要素です。これらが対応の質や企業イメージを左右するため、細かな部分まで行き届いた指導が行われます。
それを即実践し、しかも大量にこなしていくわけですから、必然的に身についていくものかもしれません。ビジネスマナーはとても汎用性が高いスキルといえます。他の業界や職種でも大いに役立つでしょう。
カスタマーサービスコミットメント
何かを購入・利用しようと思うとき、多くの場合、選択のプロセスが伴います。どの企業のものがいいのか、性能、価格、耐久性や大きさなどさまざまな基準で比較されるのです。
近年は、カスタマーサービスの質が良いことも基準のひとつとして重要視されるようになってきています。そのため、どのようなカスタマーサービスをもつのか、どのように対応するのかを公式に宣言する企業も見受けられるようになりました。カスタマーサービスコミットメントと呼ばれるものです。
コミットメントという言葉は、ビジネスシーンやメディアでもよく耳にされると思います。宣言や確約などの意味合いで使われる言葉です。出すべき成果や行動について、責任をもって関わるという代わりにコミットすると表現されることがあります。
カスタマーサービスコミットメントには、適切なサービスを提供することを確約する意味でその内容が記載されます。これにより、既存顧客や将来の顧客に対し、良質のサービスを提供することを知らせるのです。
さらに具体的に、「〇〇のときは~します」「△△が起きたら~で対応します」といった詳細が盛り込まれたものもあります。カスタマーサービスコミットメントは、自社のカスタマーサービスの姿勢を示すものなのです。
カスタマーサービスも企業の顧客獲得の一翼
カスタマーサービスには、丁寧、正確、かつスピーディーな対応が求められます。オンラインであっても、店舗での直接対応と同じような“おもてなし”の心が必要です。ビジネスマナーに沿い、それぞれの顧客の状況に合わせた情報提供をします。カスタマーサービスは決して裏方の仕事ではなく、その対応が企業イメージや業績を左右する重要な仕事です。