属人化は業務内容に対して担当者の専門性が十分に発揮できているのならばメリットですが、業務プロセスやフローがブラックボックス化し、さまざまな問題を引き起こす可能性もあります。この記事では属人化によって引き起こされる問題点や、その原因を解説し、属人化を防ぐために有効な対策方法を紹介します。
目次
業務の属人化とは
業務の属人化とは、ある業務の担当者が特定の人に限定されてしまう状態のことです。業務の属人化が起こると、限られた担当者しか業務の進め方がわからないため、担当者へ負担が集中し、不在時には業務が進められないということが起こります。
属人化の反対の言葉としては「標準化」や「平準化」が該当します。業務フローやマニュアルが整備されており、部署内のどの担当者も同程度の品質で業務が遂行できる状態を指します。
属人化とスペシャリストは違う?
属人化と似たような言葉に「スペシャリスト」があります。特定分野に詳しく非常に高い専門性を持つ人として「その人に仕事を振ればすぐに問題が解決する」といった意味で使われます。ポジティブな意味で使われる場合は「スペシャリスト」、逆の場合は「属人化」とされるのが一般的です。
あえて両者の違いをあげるとすると、業務プロセスやフローが明確化されているかどうか、担当者が優れた専門性を発揮できるかどうかです。優れた専門性とは、接客業でお客様の状況に合わせて臨機応変な対応ができる、新商品開発で誰も考えつかないアイデアを企画するなど、スペシャリストとして担当者のスキル・経験・個性を発揮できる状態のことです。
属人化が引き起こす問題点
属人化により業務の成果や業績にすぐに影響が起こることはないため、現場担当者の間では問題と認識されないことも多いのですが、組織として中長期的に見るとさまざまな問題を顕在化させるリスクがあります。ここでは属人化が引き起こす具体的な問題点を3つ紹介します。
業務がブラックボックス化する
限られた人しか業務プロセスを理解していない状態(ブラックボックス化)に陥ると、以下のような問題が顕在化します。
- 担当者が休暇中など不在時は業務が停滞する
- 引き継ぎもなく担当者が退職した場合は業務が完全にストップする
- 担当者ごとに業務品質にバラつきが出る
さらに、属人化された業務がボトルネックとなってしまい、組織全体で見ると業務効率が悪化してしまう危険もあります。業務改善や効率化に気がつかない、上司が適切な業績評価ができないなどが問題点です。
ミスに気がつかない
他の人が業務プロセス・フローを理解していないので、担当者の業務内容をチェックできず、作業ミスや判断ミスを見逃してしまう危険性があります。標準化されて複数人で業務にあたれる、相互にチェックができる環境下であれば、ミスや異変に気がつきやすいのですが、属人化している状態では小さなミスが致命的なトラブルに発展するかもしれません。
また、第三者のチェックが入りにくい状態では、たとえ担当者が自身のミスに気がついても、「自分ひとりでカバーできるだろう」「ミスを責められるのが怖い」などの理由から、黙ってミスを隠ぺいしてしまうおそれもあるでしょう。
担当者に負担が集中しやすい
ほかの人が業務をサポートできず、担当者自身の負担が増えてしまうリスクです。また、担当者自身の専門性が高く、周りの社員とのスキルに差があるために協力を仰ぎにくいという問題もあるでしょう。誰にも頼れない状況が続いてしまうと、さらに特定の担当者に業務が集中してしまうので、属人化の悪循環に陥ります。
また、特定の担当者に負荷が集中する状態では心身疲労・ストレスがかかり、最悪の場合、離職につながってしまう可能性もあります。業務プロセスを細分化・明確化し、複数人で役割分担しながら対応することで、業務負担を減らすことが重要です。
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業務が属人化する原因とは?
業務の属人化を防ぐためには、事態が進行する前に原因を取り除くための対策をすることが肝心です。ここでは業務の属人化を招く原因を3つ紹介します。
担当者の業務が多忙である
特定の担当者および部署全体の業務がひっ迫し、業務プロセスの見える化やマニュアル化にかける時間が捻出できないケースです。目の前の業務をこなすのに必死で標準化の業務が後回しになってしまい、結果として属人化が進行します。
例えば、黎明期(れいめいき)のスタートアップで、業務管理や業務プロセスの改善よりも、まずは新規獲得 ・業務推進を優先したい場合や、総務や経理といった間接部門でそもそも業務量に対して潤沢な要員配置でない場合などは、属人化に陥りやすいでしょう。
近年では感染症対策や業務効率化などで、急速に広まったリモートワークで社員間のコミュニケーション機会が減少した結果、各担当者の業務状況が不透明となり属人化が進んだ企業もあるようです。
業務の専門性が高い
特殊なスキルや高度な判断が求められる業務では、引き継ぎや後任者の教育コストがかかりすぎるなどの理由から、マニュアル化が棚上げになることもあります。
スペシャリストとして専門性を発揮し組織に貢献できているのであれば良いですが、業務プロセスやフローを細分化しながら見える化して複数の担当者で共有することが重要です。
社員自身が業務標準化に消極的
職場での地位や存在感を守るために、担当者自らがあえて業務標準化やマニュアル化に協力せず、属人化した状態を続けているケースです。例えば、以下のようなケースが該当します。
- 「これは自分にしかわからない」と他人と比較し優位に立ちたい
- 他者からの評価を受けたくない
- 専門スキルや知識を自分だけが独占しておきたい
特に社員の評価制度として個人成果主義が根付いている場合、他者との優位性を示すためにノウハウやナレッジを隠してしまうことも考えられるでしょう。
属人化を解消するための対策方法とは?
属人化に陥ってしまった業務を標準化・平準化するためには、どのような対策が効果的なのでしょうか? 属人化の影響を最小化し、属人化を解消するための具体的な3つの対策方法を紹介します。
業務をシンプルにする
まずは業務プロセスの見える化とマニュアル化が欠かせません。担当者の多忙により作業を手順化する時間が取れていない場合でも、立ち止まって強制的に時間を作ることが大切です。具体的な手順としては、以下のとおりです。
- 業務プロセスやフローを可視化する
- 部署内のメンバーで回覧する
- わかりにくいところはないか無駄やモレはないかを確認する
- 誰もがわかるようなシンプルなマニュアル、業務プロセスに整える
業務が標準化しマニュアルも充実していれば、新しいメンバーにも業務を引き継げるので、結果として「担当者をいつ変更しても問題ない状態」を作り上げることが可能です。
システムやツールを活用しナレッジを蓄積する
可視化できたマニュアル、業務フロー、業務遂行上のノウハウは「組織全体の形式知(ナレッジ)」として蓄積し、部署内で共有することが重要です。
ただし、業務の忙しさから自分の知識や経験をアウトプットする手間を嫌がったり「どうせ自分の経験は誰の役にも立たない」と遠慮がちになったりと、ノウハウの共有が思った通りに進まないこともあります。ノウハウ共有を促すためにはナレッジ化の目的やメリットを伝えたり、ノウハウを共有したことに対するインセンティブを与えたりすることが有効です。特に今までナレッジ化をしてこなかった場合はナレッジ化を継続し、定着させるための工夫が重要です。
また、ナレッジ化の方法や蓄積されたナレッジの参照方法がわかりにくいと、次第に形骸化してしまうおそれがあります。共有や活用の手順はなるべく明確にマニュアル化しておく、専用のシステムやツールを導入するなどの対策も効果的です。
業務改善アイデアを募る
マニュアルやノウハウ、ナレッジは蓄積していくだけでなく、定期的に見直して改善を続けていくことが大切です。一度作成したらおしまいではなく、作成後も複数の担当者で実際に運用しながら、定期的にマニュアルをブラッシュアップしていくことも必要です。
また、もっといいやり方はないのか、無駄なプロセスがないかを常に確認し、定期的に業務改善につながるアイデア出しをする機会を設けるのも効果的です。属人化を排除するような雰囲気づくりを意識することで業務の標準化が加速するのです。
属人化のリスクを把握し早期解消を目指そう!
社員一人ひとりが専門性を発揮しながら主体的に業務にあたるのは、企業として大きなメリットになります。一方で、属人化として問題点が顕在化すると、深刻な影響を与えかねません。属人化が引き起こすリスクを正しく認識し、問題が進行してしまう前に早めの対策・解消を進めましょう。